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2016年7月13日 (水)

「帰ってきたヒトラー」@伏見ミリオン座

(6/26付アメブロから転載) 

ヒトラーは本当に死んだのか?

――最も危険なコメディ映画に,あなたのモラルが試される!

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※ネタバレ若干あり

ストーリー
 ある日のベルリン。1945年に死んだはずのヒトラーがガソリンまみれの軍服で目覚める。サッカーをする子供たちには相手にされず,目の前にはあまたの自動車が行き交い,高層ビルが立ち並ぶ――。
 キオスクに売られている新聞の日付を見て,現在が2014年であることを知ったヒトラーは,書物を読み漁ることで,第三帝国崩壊後,何があったかを学ぶ。  一方,テレビ局を解雇されたディレクターが偶然ヒトラーを見つけて,ユーチューブに動画を投稿。それがおびただしい数の再生回数を得て,古巣にヒトラー企画を持ち込む。
 物まね芸人としてテレビに出演させられたヒトラーは,テレビカメラの前で臆することなく過激な演説をぶち,視聴者はその魅力に取り憑かれていく。やがてヒトラーは熱狂的な支持を得て頂点(レギュラー番組の獲得)に至るが,彼が現代にタイムスリップした本物のヒトラーであることに,ディレクターは気づいてしまう・・・

 こんな感じのドイツ映画。昨日(6/25),観てきました。

 笑えるけど,笑っちゃいけないシリアスな風刺映画。笑ったが最後,その笑いが刃となって自分の喉元に突き刺さる。

 この映画を観て,笑いながら高揚していく自分がいたら,それはファシズムの始まり。この映画は,そんなファシズムのリトマス試験紙となる。赤色から青色へ,笑いから恐怖へ,正気から狂気へ――それはまさに紙一重。現代人は知らないうちに,その一線を踏み越えていく。笑いがファシズムを連れてくることもある,と教えられた映画だった。

 英国のEU離脱を口火にヨーロッパが崩れかけようとしている今,これは観て損はない映画だと思った。というか観た方がいい。観てみて,自分にどれだけファシズムの耐性があるか試してほしい。ほとんどの人が耐性を持っていないのではないか。一人ひとりの中に悪魔が潜んでいることに気づくはず。

 映画では,ヒトラーを演じる役者が実際にドイツ市民に意見を聞くドキュメンタリーシーンも混じっていて,現実にドイツの人々が何に不満を持っているのか,何を望んでいるのかを垣間見ることができる。なかでも移民・難民問題は深刻で,移民排斥を訴える右派系の人が多いのが印象に残った。そしてそれは,EU離脱を決めたイギリス国民の不満ともオーバーラップする。

 本当は,どうしてこういう難民・移民が発生したのかの原因を突き止める方向に向かわないといけないのだが,ヒトラーは外国人への憎しみを煽り,ドイツ人の誇りとか愛国心の方向に民心を掻き立て,人々を思考停止に追い込んでゆく。こうしてヒトラーが人々を熱狂させ人気を獲得していく経緯を見ていくと,やはり彼は煽動政治家として天才だったと思わざるを得ない。だが,この映画が一番訴えてくるのは,こういうアジテーターを選んだのは一般民衆だということである。そういう側面が間違いなくあるということは,いま一度,肝に銘じないといけないだろう。

 自ら進んでヒトラーに投票する人たちがいなければ,ナチスが政権を取ることはなかったはずである。その限りで,ユダヤ人の迫害を可能にしたのはドイツ国民である。その責任を軽んじてはいけないというメッセージが,この映画からは伝わってくる。映画中の「私を選んだのは普通の国民だ。私を怪物と呼ぶならば私を選んだ選挙民が悪い」というヒトラーのセリフは,まさしく真実を語っている。ヒトラーもまた国民の中の一人であり,初めからモンスターではなかったのである。

 その意味で,この映画は私たち日本人にとっても教訓的である。参院選を前にして,決して他人事じゃないと感じる。モンスターを生むも生まないも,私たちの一票にかかっている。有権者は投票の責任(および投票しなかったことの責任)を引き受けなくてはいけない。誰も免責されないのだ。

 ヒトラーが権力を握ったことをうかがわせるラストは,トランプ合衆国大統領の誕生とかフランス「国民戦線」の政権獲得とかいう暗黒な未来を予見しているかのようで,背筋が凍る思いがする。本当に笑えない映画だ。唯一の救いは,ユダヤ系家族の娘を演じた女優が圧倒的に可愛いかったことだが,その彼女も最後には泣き崩れてしまう。やっぱりこの映画は本質的に悲劇であると思わざるを得なかった...

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受信: 2016年7月18日 (月) 15時12分

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