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2013年3月22日 (金)

TPP断想~比較生産費説をめぐって~

 ブログを書くという私にとって貴重な時間を,さまざまな雑用で奪われ,不本意な日々を過ごしている。思考の整理,過去との再会,時代との対峙,読書ノートなど,やはりブログは私に貴重な機会を提供してくれていることを思い知った。大げさに言えば…だが。自己満足とか独善的といわれようが,生きていく上での不可欠な新陳代謝であるので,これからも好きなように書き散らしていこうと思う。今日はTPP参加についての私見。

 TPPに対する私の基本的なスタンスは以前書いた通りで(「TPPの本質とは」),基本的には反対の立場。その理由はいくつかあるが,今日は,新聞等ではあまり取り上げられない根本的な理論の部分について述べたい。

 上の記事でも書いたが,近現代の自由貿易=国際分業論の論拠となっている比較生産費説各国間で相対的に生産コストに優れた商品に生産を特化し互いに交換し合う方が,各国にとって有利であるという考え方)を初めて説いたリカードは,確かにマルサスの保護貿易論に対する批判の一つの武器として,それを用い,自由貿易を主張した。しかし,それはイギリス国内の産業資本(農業と工業)の利益を第一に優先する視点から立てられた理論であり,海外市場に直接の利害関係を持つ商業資本を擁護する立場のものでは決してなかった。理論というものは一旦できあがってしまった以上,理論として評価されるべきだし,理論だけが一人歩きを始めるものではあるが,時論・政策論の局面で,それが応用される場合は十分な思慮が必要となる。そうでないと,トンデモナイ政策的帰結がもたらされることになるからだ。アダム・スミスの独占=戦争批判としての自由主義経済学が,ガチガチの市場原理主義となり新自由主義政策をもたらしてしまったように。

 ブログという場であるから,あまり理屈っぽくならないように書きたい。資本主義の形成期に生きたリカードは,供給は必ず需要を生み出すというセー法則の立場に立ち,基本的に過剰生産は起こらないと考えていたから,外国貿易は必ずしも「必要」とはされず,あくまで「選択」の問題とされた(『経済学および課税の原理』第7章)。リカードが比較生産費説によって自由貿易を主張したのは,マルサスが説くような穀物の保護貿易では地主階級の利益・権力が擁護・温存されるだけで,国内の産業資本(および,それと結びつく限りでの商業資本)の利益は阻害され,イギリス資本主義の構造が歪められると考えたからである。それは明らかに海外市場を目当てにした商業資本の視点ではない。視点はあくまで国内産業にあり,国内生産力の向上に向けられているのである。比較生産費説がそのような視点から提起された理論であることは,たぶん今は誰からも顧みられていない。そのような国内市場重視,国内生産力(有効需要)の増加という立場は経済思想史の流れで言えば,スミス,リカード,マーシャル,ケインズというイギリス経済学の系譜に属するものであり,私もそれに共鳴する者である。だが,今の経済学は,それとは全く反対の反ケインジアン・アメリカ経済学の流れであり,そこからマネタリストやリフレ派などの新自由主義的経済学者が出てきて幅を利かせている。なお,通説的にはケインズは,過少消費を説いて有効需要論の先駆をなしたマルサスの徒とされるが,時論・政策上,思想史上はリカードの流れに立つ。

 国内市場未成熟のままでの,比較生産費説に基づいた自由貿易のごり押しは,理論通りに各国をすべて豊かにするものではなく,豊かな国と貧しい国との格差をますます拡大し,支配=従属関係(アメリカ=アジア・日本)を固定化するものである。国内市場の形成を前提とし,国内産業の正常な発展を意図したリカードの比較生産費説は,いつの間にか国際分業=自由貿易帝国主義のイデオロギーとなり,そして今,TPP参加の論拠として,グローバルな投機資本主義と新自由主義=新帝国主義を正当化するイデオロギーになってしまった。比較生産費説という理論そのものの中にそういう要素があったことは間違いないが,それにしても,理論はそれを用いようとする者の思想や政治的立場によってかくも変容させられるのであり,それゆえ理論は,それが偉大な理論であればあるほど,正確な理解と慎重な応用が求められる。(以上,森田桐郎編『国際貿易の古典理論』等を参照)

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